2008 風切屋の書棚 〜読後報告〜



皇帝のいない8月  小林久三  (新風舎文庫¥690) 【小説】
 かつての名高き作品。小学生の時分、担任宅でライフルがあしらわれた表紙のハードカバーを見、印象が刻み込まれていました。聞けば「自衛隊がクーデターを起こす話」とのこと。いつかは読みたいと願っていたものです。タイトルもカッコイイし。

 しかしその割には、つい最近まで絶版が続いていたり。私も名前だけは知っていましたものの、古書店でも図書館でも発見することができませんでした。
 もっとも、それも読めば納得できます。

 ・・・え、これで終わり?というようなラスト。
 決起部隊に対する政権側の対応策も、現実の対テロ作戦等を知ってしまった今となっては稚拙きわまりない物にしか見えません。
 冒険小説と言うには活劇も主人公の肉体的な克服もなく、ポリティカルフィクションとしてはあまりに設定が甘い。

 ミリタリー的観点でも疑問符がつきます。

 装甲車に載せられた自走砲とは?

 30−06弾を列車内で発砲して、隣接車輌の人間が気が付かない?
 
 バズーカ1発で寝台車1両が吹き飛ぶ?

 リサーチ不足ですね。ところどころスペックデータ丸写しのような説明的な記述がありますが、それがリアルさを醸し出すどころか、実際には作者の咀嚼不足を露呈させているわけです。こういう描写って、日本の古い小説にはありがちなんですけどね・・・

 結局、ハードカバー表紙のライフルって何だったんでしょうね?
 設定的にはまだ64式小銃が配備されていませんし。ガーランドだったのかな?


※追記 古書店でハードカバー版発見。表紙のライフルは64式でした。
      あ〜・・・内容とまるでマッチしてませんけどね。
異色短編集(1)〜(3)  藤子・F・不二雄  (小学館¥981)【マンガ】
1巻・幸運児
2巻・箱舟はいっぱい
3巻・パラレル同窓会

 「ドラえもん」も単なるほのぼの子供時代マンガではなく、実にSFマインド溢れた作品です。その辺がサザエさんやちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃんと「ドラえもん」を単純比較できない要因になっていたりもします。 

 少年向けマンガでは描けない、笑いとペーソス、そして毒を含んだ作品群を収録したのがこのシリーズ。
 藤子F氏は傑作短編SFマンガを数々残していながら、世間にはその事実があまり知られていないのが実に惜しいくらいです。
 ハッキリ言って、表題作はあまり大したことがないかも。それ以外の方が面白く読めました。
 実は今回、20年前に立ち読みして以来の入手だったのですが・・・当時の読後感があまりに強かったので、もしかしたら脳内で20年間勝手に脚色しまくり・美化しすぎしていたのではないかと恐れていたのですが・・・杞憂でした。やはり傑作揃い。これは脳裏に深く刻まれて当然だと納得する作品ばかり。

 1巻は名作『ミノタウロスの皿』は当然として、『わが子・スーパーマン』に寒気がしたり。幼児の純粋さの怖い部分をよく描いております。

 2巻は表題作もなかなか良いのですがやはり『カンビュセスの籤』がもっともSFマインド溢れるかも。憎まれ屋も印象に残りますが。

 3巻は『未来カメラセールスマン・ヨドバ氏』シリーズが良い味だしてます。彼、「ドラえもん」の未来デパートのセールスマンなんじゃないかと思ってしまいましたが。

 でもできれば少年向けSF短編シリーズも復刻して欲しいですけどね。小学生時分に『ひとりぼっちの宇宙戦争』を読んで衝撃をおぼえましたから。
銭 六巻       鈴木みそ(エンターブレイン ¥620)【マンガ】
 早くも6巻目。氏の作品としては長期連載ですな。正直、ここまで続くとは思っていなかったのでファンとしては嬉しい限り。

 さまざまな経済活動の内幕を鋭く描いている作品ですが、最近は情報マンガとしてよりも時代に翻弄される多様な人間模様を描いた作品に変容しているように思えます。物語としては完成度が上がってますね。(同時に狂言回しの3人組の登場が減ってます。ジェニーファンとしては少々さびしいですが。)
 その辺、経済情報マンガとして期待している人には不満かも知れませんが・・・。

 物語の進行を見ると、そろそろクライマックスか?という感じも。
流出者(ナガレモノ)   鈴木みそ(エンターブレイン \620) 【マンガ】
 今月は2冊も鈴木みそ作品が読めるとは!いや、まさに僥倖。

 現在進行中の『銭』とは異なり、こっちは未収録の作品をまとめた物。ですので時代背景が少々古くなっている物もあります。氏のマンガはゲーム業界・デジタル家電業界を扱っている物が多いので、どうしても内容が古くなってしまうのが避けられません。ですから、その時代をリアルタイムで通過してきた読者でないとなかなかおもしろさが伝わらない部分があります。
 名作『あんたっちゃぶる』も今の10代に読ませたって半分も理解してもらえないだろうしなあ。

 『銭』はコンスタントに刊行してくれているので定期的に読め、それはそれで嬉しいのですが・・・。
 実録取材マンガから遠ざかってしまいますとみそ氏自画像を見る機会も大幅減で。
 今回の刊行でひさびさの丸メガネのみそ氏像をおがめたのが嬉しい。
R.O.D(1)〜(4)     山田秋太郎(集英社 ¥590) 【マンガ】 
 すいません、少々古い作品になってしまっているようです。
 ネットをさまよっていてMADアニメでこのシリーズのヒロイン読子・リードマンを知ったものですから。このシリーズはメディアミックスそのものの展開をしているようで全貌を掴むのに時間が掛かりました。(つまり原作付きでマンガ化されているとは知らなかった、と。)

 率直に申し上げれば、このシリーズ、20代半ばで黒縁メガネ娘で地味な格好の知性派美女という、昨今のキャラとしてはかなり異色のヒロイン、読子・リードマンの魅力でのみで保っているのではないかと。私もそれに惹かれて手に取ってしまったわけだし。
 その他のキャラクター造形は割とありがちだし、それほど印象にも残りませんでしたし。
 原作小説の作者が直接、マンガ用の原作をするというのはありそうでいてあまりないのですが・・・その割には物語としては今ひとつです。
 情報機関を扱ったシリアスとも学園ものともつかない世界観ですし、ストーリーの語り口も説明調でかなり粗いですし。教師としての読子、という面も全般に弱い。ラストも今ひとつ。かの組織にとって裏切り者である彼らが放置されるのか?という根本的な疑問も残ります。

※ただし私は小説版は一切読んでおりませんので、そちらもお読みの方には設定もなにもすんなり入り込めるのかも知れません。私の評価は単体のマンガ作品として踏まえたものです。

 異能力者にして書籍狂、そして非常勤講師となかなか異質なヒロインですので、これを充分に動かすというのもなかなか難しいとは思いますが・・・。

 個人的には、読子・リードマンのような図書館司書さんがどこかにいないか探したくなりますが。  
刀狩り 武器を封印した民衆    藤木久志(岩波新書 ¥780) 【ノンフィクション】
 最近、気鋭の歴史研究家が掘り起こしてくる’歴史的事実’には実に面白いものがあります。
 歴史の教科書的な’歴史常識’がいかに危ういものか再認識させられますね。文科省の教科書検定の正当性もはなはだ怪しく思えてきたり。
 長篠の戦いでの「3段撃ち」「武田騎馬隊の騎馬突撃」、「ポルトガル人」による鉄炮伝来、等々。
 そう、社会の教科書を読んでいるとかえって謎が増えてしまうのですよ。
 『長篠の戦いで信長考案の3段撃ちが画期的だったと評価されるけど、なんでその後の戦でその戦法が活用されていないの?』
 『新撰組の人たちには農民出身の人が多かったらしいけど、なんで武器を持っていないはずの農民に剣の達人がいるの?』
 『どうして百姓一揆で農具なんかじゃなく手製の武器とか使わないのか?』とか。

 そういう素朴な疑問に応えてくれるかのように若手研究者が事実の掘り起こしをしてくれる。
 おかげで最近ではその手の’常識’もだいぶ分が悪くなってきていまているようです。

 本書は刀狩りの実態に迫っています。果たして秀吉の刀狩りは武士以外の武装解除を狙ったものだったのか?と。
 本書の結論は明確です。「刀狩りは武装解除を狙った政策ではなく、実際、農民の武装解除は明治期になっても果たされていない。」と。
 秀吉がなにゆえに刀狩りを進めたのか、真の意味での刀狩りを実施したのは誰だったのかは本書をお読みいただいた方がよいでしょう。


 個人的には、なぜに農民出身者が新撰組で活躍できるほどの技量を身につけることが出来たのかその遠因が理解でき、20年来の疑問も解消されましたね。
本は10冊同時に読め!  成毛眞(三笠書房 \533)   【ハウツー本】
 ふだんはハウツー本とかビジネス書とか教育書とか絶対に読まないんですが。なんか浅ましくて。

 しかし本書は書店で見かけ、思わず立ち読み。パラパラやってみると、そこかしこにニヤリとするような記述が。いや、こうも似たような読書観を有している方がいらっさしゃるとは。正直驚きました。
 さすがに10冊同時はやりませんが、中学生頃から5冊程度の並行読みはよくやっていたので著者の言わんとすることはよく理解できます。
 ちなみに本書は良くあるような『速読』推奨の本ではありません。そもそもそういうことは氏は狙ってもいない。私も速読に関しては否定的な考え方を有しておりますし。

 ただ本書、ふだんを本を手に取らない方やベストセラー以外読まない方々には受けは非常に悪いでしょう。価値観があまりに違いすぎますから。また氏が著名なビジネスマンであることから本書をビジネス書と思って手に取った方もその内容に憤慨するかも知れません。いや、その可能性は高いですね。そういう訳で万人にはお勧め致しません。

 本書の内容にはいろいろと共感しましたが、もっとも頷けたのは「ライアル、ヒギンズ」>日本純文学作品、の下りかも。(笑)
  
東京右往左往  モリナガ・ヨウ(大日本絵画 \2800)   【エッセイ】
 カテゴリー分けが難しい本です。マンガ家が描いているのですが、マンガではないし。
 イラストで描いたエッセイと言うか。

 東京の非観光エリアだけをモリナガし独特の視点で記録した、あとあと時代の記録性が評価されそうな作品です。毎度ライトな絵柄ながら観察は鋭く、描写も的確です。
 いやすでにそうなっているかも。本書に記載されたお台場の荒涼として景色なんて・・・今じゃ考えられませんよね?
 それと共同取材者の飯村チナ嬢が良い味を出してます。たぶんモリナガ氏単独の取材では本書の雰囲気にはなっていなかったのではないかと。

 やや高額な書籍ではありますが、損は感じないはずです。

 惜しむらくは単行本化に際しての収録方法。
 取材対象地域ごとにまとめているのですが、そのせいで連載時の時系列とは関係ないページ構成になり、ややちぐはぐな記載となっているところもあります。それと掲載号数がはっきりしないのもマイナスポイント。

 モリナガ氏はあちこちにこのようなマンガエッセイとも言うべき作品を発表していますので、またまとめて単行本化して欲しいですね。仕事量のわりに書籍化に恵まれていない作家ですから・・・。
ダウンツ・ヘヴン     森博嗣(中央公論社 \1800)   【小説】
スカイ・クロラ3作目。
シリーズではあるものの時系列順に並んでいるわけではないので久々に読むと混乱しますな。

主人公は草薙水素。まだ現役の戦闘機パイロット時代のお話。ティーチャが敵会社に転職後の時期です。

どう語ってもすべてネタバレにつながりそうな微妙なバランスで成り立っている繊細な小説ですのであまり語れないのが辛いですね。
ただ私が読んだ中ではシリーズ中もっとも完成度が高いように思えます。アニメ版の印象が残っているせいかも知れませんが。(笑)
表紙の写真も良いですね。

しかし原作の笹倉はシバ・シゲオ的印象だよなあ。
アニメ版ではまんま榊原さんって感じでしたが。(パトレイバーが解る人だけ想像して下さい。)
 
時砂の王    小川一水(早川文庫 \600)【小説】
野尻抱介と共に注目している若手SF作家です。『老ヴォールの惑星』も珠玉の短編集でした。


一言で表現すれば本書は『一水版バーサーカーシリーズ』なのではないかと。
地球壊滅を企む異星戦闘兵器と攻防の末、どんどん過去に転戦し、延々と戦いを続ける主人公・人型知性体”メッセンジャー”たちの苦闘。敵も強敵なんですが、メッセンジャーらが時の政府・民衆を説得し、戦いに協力させることも難題です。
もちろんパラレルワールド(時間枝)も過去・未来の因果関係も影響してきますからやたら複雑な攻防にならざる得ないのです。彼らから地球生命体の未来を守り抜けるか?
最後の決戦は邪馬台国の時代・・・。

狡猾にして非情、そして執念深い異星の殺戮兵器群と人類の攻防を描いた『バーサーカーシリ−ズ』はもちろん名作の誉れ高い作品であります。
しかし。
遠未来とは言え、なんだか皇帝制みたいな政治体系だったり、けっこう人間社会も腐敗していたり。技術レベルもあんまり高そうにないし。そのへん、どうにも違和感を私はおぼえましたね。

一水作品はリアリティーに秀でていますが、本作品も細かいところで現実的です。
過去に遡って戦えば、歴史が改変され、自分たちが出発した世界には戻れない。
異星戦闘兵器は自己増殖しますが、地球上で得られる資源でしか自らを構成できない。
前述したように、時の為政者・民衆の助けなしでは戦いを継続できない。(未来軍の携わり方は墨家的でもある。)

かくのごとく現実的でありながら、難解な物語にはなっていません。
ページも300ページに満たないのです。それでいてこの完成度。
また星雲賞候補に上るのは確実ではないかなと思っておりますが・・・。
墜落日誌 社会科見学編    寺島令子(エンターブレイン \780)   【マンガ】
 ログイン、書店で見かけなくなったので、とうとう他のホビー系パソコン誌と共に休刊になったかと思っていましたが・・・Webマガジンとなっていたのですねえ。知りませんでした。

 この連載も長い。19年だそうですが・・・1回の掲載で見開き2ページ連載でしたから、巻数は信じられないほど少ないんですよね。しかしここ20年間、作風が変わらないマンガ家さんです。変わったのは登場する編集者たちくらいかも・・・。
(古いログインファンとしてはステルス松本氏の名前が出てくるあたりがうれしい。)

 Web化に伴い、ついに終了?、なのかどうかがはっきりしないのですが。
 続刊も紙の本として出版されればいいのですが。もっともエンターブレインは「紙」メディアも重視しているようですから大丈夫とは思いますが。
(むしろ書籍の電子化は出版界の当初の見込みよりも進んでいない様な気もしますね。)

 作中に出てくるゲームも当初のようなパッケージ入りPCゲームもすっかり影を潜め、オンラインゲーム全盛。しかも国産品は少数。・・・ゲーム自体、既にPCでプレイするのは主流ではなくなっていることがはっきり見えますね。パソコンゲームという言葉も聞かなくなって久しいです。

 しかし、読んでいる分には見たこともないRPGゲームの話よりも「うどん会」「寺島製作所」のようなネタの方がずっと笑えますね。「墜落日誌2」に入ってからゲームネタ比率はやや下がったものの、このへんの書き込みがやや弱く少々残念です。面白いのに。
博物館巡り企画は・・・微妙。面白くないわけでもないんですけど。『東京右往左往』とか『おとなのしくみ』など比べると弱い面もあります。日常ネタに絞ってもらった方が私としてはうれしいのですけど。


 これをアップする上で奥付に目を通していたら「発行人 浜村弘一」の表記が。氏は鈴木みそ作品でおなじみの「浜ちゃん」ですな。

 考えてみれば、環境的に鈴木みそ氏とかなり近い立ち位置の作者・作品にも思えるんですが、接点がないんですよねえ。意外と言えば意外なんですが。
フラッタ・リンツ・ライフ   森博嗣(中公文庫 \648) 【小説】
 スカイ・クロラシリーズ第4巻。
 などと言ってもどこにもそんな表記はありませんけど。おそらく意図的なものでしょう。

 今巻はクリタ・ジンロウの視点で物語られます。ジンロウと言えばカンナミの前任者として前々から(劇場版でも)名前が出てきた存在。気にしていたのは私だけではないでしょう。そういう意味でも注目の巻でした。

 クサナギの郷里など知られざる面やキルドレの真相も垣間見えたり。世界観に関しては割合はっきりしてきたようにも感じます。


 しかし不思議なのはロストック社パイロット面々の所持銃器。なぜに必要なのか、と。
 
 これまでのところ、この世界の企業間戦闘では陸戦は登場しておりません。個人的には不時着者などに対する危害行為は禁止されているのか、などと想像していました。(『戦闘妖精・雪風』世界のごとく。)
 企業間戦闘が陸戦まで及んでしまっては一般市民に対する被害も免れられませんからね。

 考えてみればこの世界でまだ『戦時捕虜』も登場していませんね?
 交戦相手に対する殺意が希薄なキルドレ達のこと、不時着者に対して攻撃するような感じもしないので、捕虜となるパイロットが出てきてもおかしくないような。
 たまたま陸戦も捕虜も登場していないだけなのか、それとも存在しないのか。

 あの世界観、見えてきたように感じさせつつ、実はさらなる謎の深みに誘い込まれているような感もあります。
鉄のラインバレル(1)(2)  清水栄一×下口智裕 (秋田書店¥533))【SFマンガ】
 数年前から書店で気になる存在だったのですが・・・期待させおいて某・特務咆哮艦みたく尻切れトンボも嫌なので様子見してました。今回、10巻刊行とアニメ化決定という区切りがついたので手に取った次第です。

 いや、表紙画よりも本編の方が格段に緻密な絵ですな。マンガで巨大ロボット物って意外に成功している作品が少ないんですが、本作品はその稀有な例のほうですね。10巻まで存続するはずですな、これでは。
 もちろん、ガンダムやエヴァ、ファイブスターの影響も見えないこともないのですが、しっかり独自色を醸し出しております。個性的なキャラクター達も良いですし、ロボット工学3原則を遵守する巨大戦闘ロボというのも意外でしたし。

 秋田書店、全盛期ほどの勢いは失っているとは言え、しっかり力量のある作家さんを擁しているなあと感心。
 アニメ化だそうですが、さてどこまで原作の持ち味を再現できるか?

補足

 さて、GONZOによるアニメ版。作画の美しさは流石GONZO。
 ストーリーの改変ぶりもやっぱりGONZO。
 むしろ原作のストーリーラインとの共通性を探す方が困難です。

 というか、主人公、あれではただのバカでしょう。原作は中学生らしい近視眼的な愚かさ加減の表現が絶妙でしたけど・・・。

 原作ファンなどどうでも良いようですな。「ヘルシング」の際にもそのへんで非難囂々でしたが。制作側も評価を知らないはずもないですし。確信犯なのか?

 アニメオリジナルストーリーも否定はしませんが(たとえば「うる星やつら」なんかでもいまだに評価されているのは押井版アニメオリジナルだったりしますし。)、原作を超える内容じゃないとファンは納得しないものですが。

 
フリ−ランチの時代 小川一水 (早川文庫 ¥660)【SF短編集】
 前短編集『老ヴォールの惑星』も珠玉の短編集でしたが・・・。今回も期待に違わずやってくれました。しかし外れのない作家だよなあ。

 こう言っては何なのですが、国内SFの動向を見ていてもSF短編に対する評価は全般に高いものとは言えません。短編集はあまり売れない、との話も聞きますし。
 SF短編の名手・草上仁もけっこうな数の未収録作品を残したまま早川から刊行されなくなって久しいくらいですからね。他の作家作品でも短編をまとめてもらっていない方は少なくないはずです。
(神林短編も再録するくらいなら未収録をしっかり入れてくれよと文句も言いたくなります。)

 小川作品は長編も大したものですが、短編の完成度もすごい。ミチミチと詰め込みすぎることもなく、食い足りないと言うこともなく。あたかも点心のように充実した作りになっています。

 前回も表題作よりも『迷宮』や『漂った男』のインパクトが強かったのですが(もっとも、やはり刊行するとなれば『老ヴォールの惑星』という表題がベターだった様な気もします。)、今回も表題作よりも『時砂の王』のスピンオフ作品『アルワラの潮の音』の方が強烈な印象を残しました。このまま『ヴァーサーカーシリーズ』のようにシリーズ化してくれないものかな、と。
第六大陸        小川一水(早川文庫 ¥680)             【SF】
 また小川作品ですが。
 月に民間施設・「第六大陸」建設。
 参加技術者青年と施主の美少女を中心に描く、計画から竣工に至るまでの人間ドラマ。
 技術論あり、政治的謀略あり、家族の愛憎劇あり、ラブロマンスあり。盛りだくさんの上下2巻。

 というのがもっとも単純な紹介でしょうか?
 ある意味、土木建築SFでもあるのですが・・・かと言って谷甲州作品ほどドメスティックではありません。(谷作品はあれはあれで大好きですが。)
 どっちかと言うと野尻抱介作品に近いようなテイストがあります。物語終盤のエピソードなど「太陽の簒奪者」的ですらあります。
 というか私は小川・野尻作品を時々混同してしまうのですけどね。
咎狗の血(1)〜(5)   茶屋町勝呂(エンターブレイン ¥)   【近未来アクションマンガ】
 知り合いの女性に激しく勧められまして。作品の存在自体は知っていたんですが、なーんかBLものっぽくて敬遠してました。(などと言いつつ、今市子作品は愛読。)
 絵柄も少々クセがありますし。

 しかし読んでいくとなかなかおもしろい。
 「第3次大戦終了後の荒廃した東京で、チンピラが大勢参加するルール無用の殺人ゲーム?それなんの北斗の拳?」などと鼻で嗤っていたんですが。
 謎が多いストーリーライン、魅力的な中年キャラなど引き込まれてしまうテイストもあり、とうとう最新刊まで追いついてしまいました。

 キャラクターの魅力重視、ケレン味を最優先という面が濃厚で、正直、設定面での甘さは多々あります。ミリタリー好き、冒険小説好きには首を捻る箇所も多々。以下列挙。


・登場人物のサバイバル能力の低さ。

 その辺の町のチンピラと大差ない感じで。
 軍国体制下で少年期に軍事訓練を受けつつも実戦参加することがなかった若者達が大半であ
りながら、彼らのサバイバル能力が低すぎます。戦闘能力はともかく。野外での自活能力、応急処置、状況を観察する能力等々、歩兵の初歩訓練も終了していない様子。軍事訓練では戦闘技術以上にそっちのほうをまず叩き込まれるはずですが。
 よって戦闘員としてのリアリティはイマイチ。ただし、元傭兵を自称する情報屋のオヤジさんだけはこの面では圧倒的に光っています。でも主人公達も同水準等は言わずとも、同様のスキルは持っているはずなんだけどなあ・・・。


・収益の上がらない犯罪組織の運営方法

 殺人ゲームを参加者にさせ、彼らが奪い合うドッグタグを貨幣代わりに流通させるというアイデアは実にそれっぽいのですが・・・考えてみれば、このドッグタグ、そもそもこの犯罪組織が参加者に配布してるわけで。これを自分の所で捌いている物資と引き替えてもなんら組織の収益にはなりません。リアルマネーとの交換も出来ないし。


・銃器以外の使用は可と言いつつ、あまりに貧弱な参加者の武器。

 物語上最強クラス男・シキが日本刀を使用。それ以外はナイフやらナタやらヌンチャクやら。
 いかにもシキが強いように描かれてはいるのですが・・・刀の方がナイフに対して圧倒的に優位なことは軍事訓練を受けた人間なら周知のハズで。むしろナイフを棒にくくりつけて槍にしてみるとか、弓を使うとか。投石でも良いか。命を賭けた戦いに赴く以上、自分の得物の強化は必ず行うと思うのですが・・・。不利な条件を放置して参戦、ってかなりヘン。
 処刑人キリヲの鉄パイプ、当初はバカみたいに思えてましたが、あの世界では十分有効だろうなあ。リーチの差は重要だから。


 とまあ、ツッコミどころは多く、美青年率も高く、登場女性は1名のみで。やっぱりBLものゲームがベースという第一印象はいまだに拭えませんが、それなりに楽しんで読んでいます。

 個人的に好きなキャラは中年の情報屋・源泉とバーのマスター。愛銃がガバメントというあたり、元傭兵という雰囲気を良く出してます。
 そして処刑人のキリヲ。なんかジャイアン的なキャラで。凶暴で理不尽でありつつ、その実、知性的な面がありまして。このキャラクターも敵か味方か判然としないところがあり、けっこう謎めいております。

 





 
ラブホテル進化論  金益見(文春新書 ¥700)                    【社会科学】
 キワモノっぽいタイトルですが、いたってマジメにフィールドワークされまとめられた社会科学の書です。まとめたのが現役女子大生(大学院生)というあたりも話題性を高めた原因だとは思いますが。個人的にはイラストも本人によるものという点を高く評価したいです。

 なぜに山奥に忽然とそびえる「お城」があるのかなど、数々の疑問に答えてくれました。
 内容も充実、文体も柔らかく読みやすい。今年の「アタリ」の一冊です。


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