2007 風切屋の書棚 〜読後報告〜

平成COMPLEX 壱     小だまたけし(少年画報社\540)            【コミック】
 かの佳作「平成イリュージョン」以降、長く沈黙を守ってきたと思っていたのです が・・・あちこち描いていたようですね。
 ただ単行本化に恵まれなかっただけで。それはそれでファンにも不幸なことです が。

 「イリュージョン」は女性憲兵である主人公を軸に太平洋戦争を回避できた世界 の平成時代を描いた作品を中心にしていたものの、そのほかにも江戸時代に存 在した日本人街が存続した世界、遠未来の火星の独立紛争等々、さまざまな世 界の物語をまとめたような話で魅力はあったのですがややまとまりに欠ける感も ありました。
 あと絵柄も少々くどいところがあったのも事実かも知れません。
 とは言え、繰り返し熟読させるだけの勢いのある作品でした。

 先日、「小だまたけし」で検索を掛けていたらたまたま本書の存在に気がつきま して。
 地元の書店で探してみるとしっかりありましたね。(最近、チェック漏れが多くて参 ります。歳かな?)

 この「平成COMPLEX」、「イリュージョン」の再録+続編かと思っていましたが 設定を踏襲した新作になっておりますね。
 物語の軸も大幅な変更はしないまま、さらにふくらませている印象があります。 伏線も相当張っているようですし。
 続巻が待ち遠しいです。
刑務所の中     花輪和一 (青林工芸舎\1680)                   【コミック】 
 「体験実録マンガ」とも呼べるべきジャンルがあります。もちろんその方面の有名 マンガ家さんもいますね。成田アキラ氏などは著名でしょう。
 もっとも性風俗関連の作品が多く、特筆するほどの作品はあまり見かけません。
 誰かの手記をマンガ化するものとは異なり、マンガ家自身がそういう体験に遭遇 しなくてはいけませんから。
 また特殊な経験をした人が後日、マンガ描きのスキルを身につけ発表するという こともやはり多くはないでしょう。

 しかしここ数年で大きく注目を浴びた体験記の双璧、獄中記『刑務所の中』とホ ームレス・アル中治療記『失踪日記』は正に例外的な作品です。
 人間がこのような状況に追い込まれることは特異でありますし、またそのような 体験をしたところで作品化されたり発表されたりする機会もそうそうありません。
 これまで逮捕され収監されたマンガ家も他業種に移ったマンガ家もいるにはいま すが、そのことを大々的に作品として発表されたことはほとんど無いはずです。
 マンガを描くことはひどくエネルギーを要することですからそれは実に当然のこと でしょう。
 2作品の分析は私ごときには手に余るものですし今後も力のあるマンガ評論家 が論じ続けるでしょうからそもそも不要でしょう。ただ2作品が日本現代マンガ史上 できわめて特異な作品であることだけは誰が読んでも論を待たないところでしょう ね。

 活字の獄中記はあまり珍しいものではありません。ただし面白い作品はあまり 多くありません。
 理由はさまざまあると思いますが、そもそも視点がアウトローのそれでは一般的 な社会の内側にいる者にはなかなか感情移入しにくいことも理由の1つではない かと思います。
 この点、銃刀法に問われたとは言え、カタギであるのマンガ家の立ち位置はその 段階でなかなか絶妙です。
 花輪氏は人間観察・周囲の観察の眼に優れ、かつその表現にも秀でておりま す。また収監理由も大事でしょう。
 拳銃の不法所持。もちろん軽い罪ではありませんが、作中の射殺犯とはその異 なりその銃は誰かに対して使用した訳でもありませんでしたから被害者が存在し ていないのです。
 獄中で被害者感情に考慮する必要がなかったという点は刑務所内観察をする 上でも出獄後に作品化する上でも大きなメリットになっていたのではないでしょう か。

 一般的な獄中記とは印象を異にする点はいくつか挙げられます。

・衣食住に関する記載が異様なほど細かいこと。生活感にあふれている
・看守に対する悪感情が前面に出ていないこと
・自身の内面描写があまりないこと。きわめて淡々  等々

 異色作かつ傑作であることは間違いありません。ぜひご一読を。

ヨコハマ買い出し紀行(14)     芦奈野ひとし  (講談社アフタヌーンKC \520)【コミック】 
 ついに完結。この作品、私が学生時代の頃から連載されていましたから実に感 慨深いものがあります。
 おそらく地球温暖化が進行しすぎてしまった近未来世界が舞台だったのでしょ う。
最後まで数々の謎への明確な回答はなされませんでした。特に後半の時の進み 方は急激でしたから。
 作者が意図したものか編集部の意向だったかはわかりませんが。
 アルファのご主人も最後まで顔を出さずじまいでしたし。
 ガソリンスタンドのじいちゃん、アヤセ、ナイのその後も描かれなかったのがちょ っと残念。

修理 仏像からパイプオルガンまで     足立紀尚(ポプラ社\1575)  【ノ ンフィクション】 
 さまざまな分野の修理技術者を紹介したルポ。

 かけはぎ職人から厳島神社の大工さんまでと表記した方が正確かも。
 技術系の堅い本ではなく、『mono』誌連載記事ルポをまとめたものなので割合 ライトタッチで読みやすかったですね。
 掲載紙の性格上、あまりつっこんだ内容になっていないのでやや喰い足りない 感もあります。
分解! 日用品・自転車を分解してみると!   堀内篤(技術評論社\1764)     【その他】 
 Amazonの書評もあまり芳しいものではありませんでしたが・・・。私の評価も同様 です。
 さまざまな身近な製品の分解記事とその途中写真多数を掲載しているのです が、何とも中身がない。
 内部機構を解説したものでも、分解・修理法を説いたものでもありません。
 野次馬根性でバラして、その過程をそのまま記事にした印象しか受けませんでし た。
 私は割合、分解修理を好んで行う質なのですが、その参考にはまるでなりませ んね。

 「分解は暇つぶしにはもってこい」などと序章で書いているあたりで志の低さが露 呈しているように思えます。
 出版意図そのものに疑問を感じる1冊です。
鏡像の敵     神林長平(ハヤカワ文庫\735)                        【小説】 
 これまで収録されてこなかった短編をまとめたもの。
 「痩せても狼」が乗ったのは嬉しい。この泥棒2人組は好きなんですよね。「親切 がいっぱい」の土井・武井ペアみたいで。(いしかわじゅんの挿絵は実のマッチして ました)

 どうにも疑問なのが「兎の夢」他再録が目立つこと。
 読んでいて、あれ?このストーリー知ってる、という作品が数本。どうも『時間蝕』 が絶版になったための救済策らしいですが・・・疑問に感じます。
 とは言え、「ここにいるよ」は良い作品でもありますし、再録を一概に否定も出来 ないんですよね。
レイモンド(1)     田丸浩史(富士見書房¥800)                   【コミック】
 田丸作品が好き、とあえて風切屋は公言しましょう。
 危ないネタも、絵柄も、ギャグも琴線に触れまくりです。作者が実はガンマニア+ バイクマニアというのも親近感が持てます。(世代も似たり寄ったりだしなあ。)
 非常に力のあるマンガ家さんなんですが、ネタの危なさゆえか、代表作である 『ラブやん』でさえまともに論評されていない節がありますね。そういうところ、まだ まだマンガ文化は成熟しきっていないように思えます。

 メガネの女子小学生の机の引き出しから現れたのはネコ型ロボットならぬ海兵 型ロボット・レイモンド。彼女を刺客からガードし、未来の歴史を守るのが目的、ら しい。
 タイムマシンやらどこかに繋がる小窓やら胡散臭い未来の道具が引き起こす悲 喜劇の数々・・・エエ、非常にわかりやすいパロディですね。

 一休さんがらみの歴史改変のエピソードが気に入りました。ブラックで。
 お子様にはお勧めしませんけどね。
機動戦士ガンダム MS IGLOO 603(1)     MEIMU(角川書店¥54 0)【コミック】
 フルCGアニメ「MS IGLOO(イグルー)」シリーズはファーストガンダム世代には かなり好評だったようですね。10代の知り合いたちはあまり評価してませんでしたけど。
かなり渋めのストーリー+メカデザインですので人を選ぶのかも知れません。
 
 この映像作品をマンガ化したのがこの本。
「大蛇はルウムに消えた」は映像作品を忠実になぞっています。
第2話以降はコミックオリジナルです。(正確には第3〜5話「蝙蝠はソロモンにはばたく」は映像化が見送られた作品ですのでコミックオリジナルというのは語弊があるかも知れません。)

 ガンダムのマンガ化作品は往々にしてメカもしくはキャラの描き方が稚拙で読むに耐えないものになりがちなのですが本作品は絶妙なバランスでそれに成功しています。さすが『ケケケの智子ちゃん』で鳴らしたMEIMU氏。(←このネタが判るのもファースト世代だけかも。)
トップをねらえ!NeXT GENARATION    そうま竜也                  【コミック】
今は無きパソコン雑誌「コンプティーク」を知る世代はもはや30代かな?
かの月刊誌で連載されていたマンガでした。未完のままで単行本化にも恵まれず忘れ去られていたかと思っていたのですが・・・よもや20年ぶりに再会するとは。
(藤原カムイの『犬狼伝説』といい、マンガってこういうパターンが結構ありますね。 小説『ラバウル烈風空戦録』も復活を期待していたのだけど、ああいうのは御免こうむりたいです。ファンを舐めてますね。)

惜しいのは結局、未完であったこと。
作者と何交渉して完成させて欲しかったですね。
そうま氏、マンガから手を引いてしまったのかな・・・?
艦攻スカイレーダー戦闘発進   ロザリオ・ローサ(サンケイ出版¥460)【ノ ンフィクション】 
 佳作。
 著者もスカイレーダーパイロットだったのですが、個人的な体験記録などはかな り抑えており、関係者からの取材をまとめた体裁になっております。おかげで実に 濃いドキュメントとなっておりますね。
 この手の『元・○○の手記』ってのはけっこうクセモノで、洋の東西を問わず愚にもつかないエピソードがてんこ盛りになる傾向が強いんですけどね。本書に限って言えばそういうこととは無縁です。

 スカイレーダーの戦闘記録の概略を知るには格好の書ですね。問題はいささか古い本なので入手に手間取ることでしょうか? 
ハチミツとクローバー(1)〜(10)      羽海野チカ(集英社¥400)           【コミック】
 すいません。今ごろこの作品にはまってしまいました。
 とにかくキャラクターが秀逸です。特に不甲斐なさを自覚し克服のためにがんば り、でもやっぱり不甲斐ないという全男性キャラクターは男性読者の共感を呼ばずにはいられないでしょう。
 私の場合は年齢が年齢なので、ヒロイン・花本“はぐ”はぐみなんかよりもその親戚の花本“修ちゃん”先生の立ち位置やセリフが身につまされます。

 アニメ版は原作のエピソードをややカットしていますが、かなり忠実に原作をなぞっており、原作を読む前に視聴してもがっかりすることはないでしょうね。

 どーでも良いのですが、花本先生、『カウボーイ・ビバップ』のスパイクにそっくりだと思うんですが・・・ネット上でもこういう声は少数派のようですね。

 なお、岩手県民(特に山田町民)は7巻だけでも目を通すと吉かも。
ちなみに現地にはアレを上回る、想像を絶するアイスクリームが販売されてました。いや、はぐ&あゆの料理を超えていますよ、○わ○アイスって・・・。

 しかし竹本君、あの国道45号線を自転車で北上したのか・・・苦行ですな。
(漫画を読んであのルートを自転車で辿ろうとした貴方、悪いことは言いません。 岩手県沿岸部の45号線は避けて通るのが無難です。きっとあのもらった地図には、かれこれ200km分、真っ赤なラインが引かれていたはずです。)

 ところで「北斗星」を目撃したのはどこだろう?大間でフェリーに乗ったということ は、やはり八戸近辺?
ブラッドハーレーの馬車  沙村広明(太田出版 \667)【コミック】
 「ハチクロ」のあとにこの作品を挙げてしまうのは私くらいかも。
 かの作品が悪人が1人も存在しないユートピアの中での青春群像劇であるとするなら、本作品は赤毛のアンをモチーフとしつつも地獄を描いた作品と言えるでしょう。いや、赤毛のアンのファンを読まない方が良いかも。

 いや、よくまあここまで鬼畜な設定を思いつけるものです。「無限の住人」もそういう面が多分にありますが。

 第二話「友達」、一読した直後には設定と主人公らの言動が矛盾だらけで理解できなかったんですが・・・何度か読んでいくうちに真相が見えてきます。ちゃんと全てが描き込まれているんですよね。
末期の水物兵器集  こがしゅうと(イカロス出版 \1429) 【ミリタリー】
 2007年最大の収穫かも。こがしゅうと氏の名前は模型誌などでも見かけるよう になってきました。力のある作家だけに、やっと世間の評価が追いついてきたか、 という観もあります。

 氏は帝国陸海軍のマイナー兵器ばかりを短編マンガ+イラスト付き解説で紹介した同人誌を長年発行していた模様です。その中の数冊をまとめて出版したのが 本書。イカロス出版も良い所に目をつけています。続巻も要望しますね。(氏の同人誌の大半は既に絶版になっており、入手困難です。同人誌は古書店でもまず 発見できませんし・・・)

 取り上げられているのがもう、マイナー兵器ばかりで。
 秋水・2等輸送艦・甲標的・九六式二十五粍機銃・特四式内火艇・伏龍・仮称五 式撃雷・Mk25機雷・四式二〇糎噴進砲・・・ミリタリー好きを自認する方でもこの全てを瞬時にイメージできる方はそうそういらっしゃらないだろうなあ。

 私もここ数年、九六式機銃に関しての資料をだいぶ漁ってきましたが、本書解説 ほどのデータは得られませんでしたね。
 2等輸送艦も私好みの艦で、これが購入に踏み切らせた大きなファクターだった かも。 


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